Che bella!

　
…染み付いた社交辞令すら忘れる程に唯漠然とそう思うよ。
何せ俺が懸命に装飾したとしても鈍く濁るだけだと云うのに、彼の人達は“綺麗”、其れだけ云うだけで充分なんだ、言葉の一ツ一ツが繊細で俗気が無い、余りにも、美麗。同じ言葉を呟こうとも己の浅ましさが顕れるだけで、殊更息が詰まる様な気持ちにさせられる。賞賛、ましてや侮蔑等を与えられる方々が妬ましい、とは思えど羨ましいとは思えないのもまた矛盾、いやきッと俺だったら毒されてしまうだろうからさ、と云うのは―さておこう。
…今日の朝ね、昨日何が切掛けかは検討も予想すら付かないがフレンチトーストを作る、と食パンを買ってきた奴が居てさ、其れを思い出して聞いたんだ―「フレンチトースト、作るの？」とね、其の問いに対しては年甲斐も無く元気な御返事が返って来たよ、三十路過ぎの男が「作る！」何て。
其処迄無駄な気合が或るならば、と俺も俺で期待はして居たん、だが。
出て来たのはベーコンエッグ、三角に切られた二枚のトースト。此は美味しそうだと咀嚼したものの、…。
…俺の記憶が正しければフレンチトーストとは卵と牛乳を恁う、食パンに付けて焼く物で在って、マーガリンのみを塗る物じゃあ無い筈―いやと云うか其れじゃあ普通のトーストだろ！
何故フライパンで態々焼いたんだいトースター使え…！嗚呼突っ込みたい、喪しかしたら突っ込み待ちなのかい…！いやあ美味しかったがね！